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Matzにっき


2005-06-02 [長年日記]

_ [OSS] EC幹部:「オープンソースコミュニティは大手IT企業の下請け状態」

ふむ。「米国の大手IT企業数社がオープンソースコミュニティの進展に影響力を行使しすぎている」のだそうだ。これはどういうことなのだろうか。

ECの情報社会/メディア総合理事会のソフトウェア技術担当主任、Jesus Villasanteは、IBMやHewlett-Packard(HP)、Sun Microsystemsなどの大企業は、オープンソースコミュニティが独立した商用製品を開発するのを奨励する代わりに、彼らを下請業者として利用しているだけだと述べた。

「IBMは顧客に『プロプライエタリなソフトウェアとオープンなソフトウェアのどちらがいいですか』と訊ね、(顧客がオープンソースを望んだ場合) 『了解しました。IBMのオープンソースですね』と言っている。彼らの場合は、オープンソースよりも先に、IBMやSunやHPといった社名が出てくる」

よくわからない。「IBMのオープンソース」とはIBMが開発を主導しているオープンソースソフトウェアという意味だろうか。顧客がオープンソースソフトウェアを望んだ場合、IBMの営業がそのようなオープンソースソフトウェアを進めるのは十分合理的だと思う、そのソフトウェアが要求を満たしている限り。他にもっと「よい」ソフトウェアがあるのに、「IBM製品」を勧めるのはどうかと思わないでもないが、営業というのはそういう傾向があるのはいつものことだ。

なにか違うことを言っているのかな。

「これらの企業は、オープンソースコミュニティの潜在力を下請業者として利用している--現在のオープンソースコミュニティは、米国の多国籍企業の下請け状態にある」とVillasanteは付け加えた。

同氏は、オープンソースコミュニティに対し、これら大企業への依存を減らすように呼びかけた。

「米国の多国籍企業の下請け状態」とは、具体的にはどんな状態か。 想像するに、結局は「IBMのもの」と認識されるソフトウェアの改善にコミュニティの努力が吸い取られている、 ということだろうか。が、実際にはそんなことが起きているのだろうか。 あるいは、それによって問題が起きているのか。

もし、「依存を減らす」、つまり、IBMやSUN、HPのような企業がスタートしたプロジェクトへかかわらない ことをオープンソースコミュニティが選んだとするならば、 これらの企業にとってオープンソースの魅力が減ってしまうことになる。 そうであれば、「米国の多国籍企業」は今までのようにEclipseやOpenOffice.orgのようなソフトウェアを オープンソース化するという選択をしなくなるだろう。 このような選択で得をするのは、オープンソースコミュニティでも、 ここで名前のあがっている米穀米国の多国籍企業でもなく、 プロプライエタリなソフトウェア企業、たとえばマイクロソフトだろう。

「下請け」という煽情的な言葉で抑圧されているイメージを煽っても、 結局我々の手にする自由が減ってしまってはなんにもならない。 我々はソフトウェアの自由が欲しいのだ。 その見返りに「米国の多国籍企業」が自分のブランドの改善や自らのビジネスに オープンソースを利用したところで、我々はいっこうに気にしない。

「オープンソースコミュニティは、自分たちの存在を真剣に捉え、コミュニティがコミュニティ自身や社会に貢献していることを自覚しなければならない。コミュニティが自らを社会進化の一部であると自覚し、それに影響を与えようとした瞬間から、われわれは正しい方向に動き出すだろう」 (Villasante)

もうちょっと「正しい方向」を具体的に定義してもらわないとなんとも言えないなあ。 でも、ここで表現されていることだけから考えると、 彼の言う「正しい方向」が本当に正しい方向かどうか自信がない。

_ 集中講義『計算機システム特別講義IA』

ということになったそうだ。詳細は以下の通り。

集中授業について	
情報学類開設	
授業科目名	計算機システム特別講義IA
科目番号	L51 2511
単位数	1単位
標準履修年次	1〜4年次
担当教員	松 本 行 弘
              ネットワーク応用通信研究所 特別研究員

授業概要	プログラミング言語の設計と実装について述べる。単な
        	る処理系の話ではなく、新たなプログラミング言語を作る
        	という視点から、プログラミング言語そのものの設計と、
        	その処理系の実装に必要な技術について解説する。

日程	7月14日(木)10:00〜18:00
    	7月15日(金)10:00〜18:00
教室	3A203
履修申請	6月9日(木)〜7月6日(水)
        	TWINSで申請すること。
備考	(世話人教員)システム情報工学研究科 新城 靖

2日かあ。ちゃんと準備しなくちゃなあ。

本日のツッコミ(全7件) [ツッコミを入れる]
_ みずしま (2005-06-02 20:28)

名前のあがっている米穀の -> 名前のあがっている米国の<br>ですね。

_ まつもと (2005-06-02 21:38)

ありがとうございます。直しておきました。

_ おごちゃん (2005-06-03 16:34)

某日記にも書いたけど、金や人を出したメーカが、ある方向を持って強力にある方向にドライブするという現象が起きると、やはり油断したら「下請け」になってしまうと思うのだけど。自由そのものは減らなくても、「思っていた自由とは違う自由」ってのは困るわけだし。

_ まつもと (2005-06-03 17:45)

よくわかんないです。<br>元の記事もおごちゃんの論評も具体性がないので、私には問題がイメージできません。<br><br>「金や人を出したメーカが、ある方向を持って強力にある方向にドライブする」ことによってば問題が発生する可能性があるということは、可能性として理論的には否定できないけど、具体的にどんな問題があるのかはピンと来ません。無理矢理考えると「うちのビジネスにはおたくのオープンソースソフトウェアにこんな機能がついているとありがたいです」と強力にプッシュされて、ホントはその機能を入れたくないけど、金や人を出してもらっているので断り難くて導入してしまうとかのケースが考えられないことはないけど、それが現実となるためには無理強いされた機能が「一部の人しか喜ばない機能」で、かつ「他の人の邪魔になる機能」の場合だけなんじゃないですかね。そうでなければ、一部の人しか使わない機能でほんのちょっとソフトウェアが肥大化した、というような軽微な影響しかないと思います。<br><br>要するに、危険性は否定できないけど、心配するほど頻繁に起きるとは思えない事態を懸念して、大企業からの「支援」を断る必要があるのかなあ。

_ おごちゃん (2005-06-04 21:21)

「使わない機能の付加」よりも、むしろ「多くの人が喜びよく使う(けど原著作者の意図とズレてる)機能の付加」の方が嫌な結果になるように思うのです。<br><br>イメージ的には、たとえばどこかの大企業がRuby+eRubyを見て「これは将来PHPを超えるウェブアプリの開発言語になる」と思って、いろいろやって、そのあげくにRubyのcoreにまでそんな機能を取り込んでしまったら。確かにウェブアプリの開発言語としてRubyをとらえている人にとっては大歓迎されるでしょうが、それが果して原著者や「それ以外の用途」に魅力を感じてた人にとっては、どういったことになるか。<br><br># まぁRubyの原著者は頑固だから大丈夫だろうけど B)<br><br>とは言え、支援を断わる必要はないと思います。うまく統治して行けば良いだけのことだから。ただ、統治能力がないところにしていろいろ入って来ると、下請けになっちゃうかもという話でしかないのだし。

_ まつもと (2005-06-05 00:00)

うーん、「支援を断わる必要はない」のであれば、「下請けになってしまう」という警告の真意がよくわからなくなってしまうのです。<br><br>現状のRubyでも、見方によればRubyを利用してビジネスしている人の「下請け」であると考えることもできないわけではないですよね。Rubyを開発することで彼らの仕事に貢献しているわけですから。だけど、私は全然不満に思ってないわけです。私は困ってないし、彼らも私に迷惑をかけているわけではない。むしろ我々を「下請けとして利用している」ことを自覚して積極的に支援してくれるなら大歓迎です。<br><br>おごちゃんのあげた例のように、いろいろと注文付けてくる人がいるのは事実ですが、それはそれで独立した問題だと思います。原著者の意向が一番大事というわけでもないし。<br><br>で、これはRubyのような自然発生的OSSプロジェクトについての話なんですが、逆にSunのはじめたOpenOffice.orgのようなOSSプロジェクトがコミュニティの努力を「吸い上げている」ことを「下請け」と呼ぶのはわからないでもないですが、それだって拒否するほど問題には思えません。SunはOpenOffice.orgの成果をStarOfficeに取り込んでいるかもしれませんが、それくらいの「利用」にケチを付けるほど狭い了見でオープンソースに参加していても不幸ではないかと。もっとおおらかにとらえて欲しいものです。

_ おごちゃん (2005-06-06 16:18)

一言で言えば、「統治能力がなくて支援を得ると下請けになるよ」ってことです。<br><br>実は「成果の吸い上げ」については「御自由に」と思って見てます。特に元がメーカがやり始めたことなら、なおのことです。儲け損ねるのは損をしたわけじゃないし。<br><br>危険を感じるのは、いつの間にか良いものを押しつけられちゃうことですね。「良いもの」は断わりにくいし、主導権は持って行かれやすいし。<br><br>まぁ松本君がそんなふうな「割切り」を持っているのなら、それはそれで良いことかと(謎)

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