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Matzにっき


2007年08月28日 [長年日記]

[つぶやき] 大規模ってなんだろう - Don'tStopMusic (2007-08-27)

ひとくちに「大規模」と言ってもいろいろある、という話。

  • ソフトウェアの嵩が大きい。平たく言ってしまうとコード行数が多い
  • 関わる人たちの作る組織が大きい。開発者がたくさんいる
  • 利用するユーザの数が大きい。例えば流行ってるウェブアプリ

あと、付け加えるならば「金額が大きい、責任が重い」があるかな。

個人的な印象では「嵩」、「組織」については、 ツールや手法による支援と発想の転換で、 できるだけ小さくしていくしか生き延びる方法はないと思う。

たとえばRubyやRailsは、簡潔さと複雑さをフレームワークの下に隠してしまうことで 小規模な組織でも「ちゃんとした」Webアプリケーションの開発を可能にしている (と見なされているから流行ってる)。

あるいは、IDEやリファクタリングツールなどもそういう助けになってる のかもしれない。

私はこの種の大規模対応のことを「開発のスケーラビリティ」と呼んでいる。 そのゴールはできるだけ小さなコスト(ソフトウェア規模やチーム規模)で できるだけ大きな成果(顧客満足、価格)を産み出すことだ。

間違ってもソフトウェア規模やチーム規模そのものをゴールにしてはいけない。 「大規模なソフトウェアが作れました」とか 「大人数で技術レベルがバラバラのチームをマネジメントできました」 なんて自己満足でしかない。手段と目的を混同してはいけない*1

一方、「ユーザの数」で表現されるタイプのスケーラビリティもある。 アクセス数、アクセス密度、データ量などである。 私はこれらを「実行のスケーラビリティ」と呼んでいる。

これはこれで重要な問題だが、少なくとも開発のスケーラビリティとは 異なる技術が要求される。ApacheやFastCGI、Mongrelの使い方とか、 データベースの分割・複製、マルチコア活用。

どれをとってもエキサイティングな技術である。 これからもっと重要性が増す技術だと思う。

*1  手段のためなら目的を選ばない、まつもとに言われたくはないかもしれないが。

_ カンファレンスコール

海外(特にアメリカか)では、 わりと一般的なビジネスツールであると聞く、 カンファレンスコールを使う機会があった。 参加者の大半はアメリカ在住。

  • 予想通り、誰が誰だかすぐに分からなくなった。
  • 「あなた」とか言われても誰か分からないよ
  • 電話での英語のヒアリングもそれなりにしんどい

ということで、次回があるなら、もうちょっと別のツールが使いたいなあ。 SkypeチャットとかIRCとか。文字ベースの方が私にはありがたいなあ。

国際電話経由で参加したのだが、 IP電話のおかげで安くすんだ(13分で40円)。 これだったら国内で携帯電話にかけるよりはるかに安いよ。

_ NHK取材

NHK地方局の短い番組でとりあげていただけるそうで、取材を受ける。 とはいえ、業界のネタを普通の人に分かるように表現するのは 困難を極めるので、取材の人も頭を抱えてる。

聞くところによると土曜日朝の5分のコーナーなのだそうだが、 取材だけでも何時間もかけている。 この後、撮影もあるんだが、それもきっと何時間もかかるんだろうなあ。

以前、未踏の件で「クローズアップ現代」に1分くらい登場しただけでも、 撮影に半日かかったものなあ。テレビはしんどいよ。

恥ずかしいし。

_ [言語] sumim’s smalltalking-tos - なぜかくも人は Smalltalk を殺したがるのか?

すいません、片棒担ぎです。

とはいえ、私にはSmalltalkを殺してもなんのメリットもない。 Smalltalk(や、Lisp。以下同じ)の優秀さを知るからこそ、 なぜSmalltalkが大衆に人気がないのかを考察することこそ 私が興味がある点だ。

大衆は強力なパワーに関心がないのか。 言語の人気はなにで決まるのか。

先日お話した青木淳さんも「苦節25年、もうあきらめてます」とおっしゃっていた。

  • オープンソース処理系の登場が遅れた
  • 馴れた人にはともかく、素人には特異な文法
  • 利点でもあり欠点でもあるイメージモデル

くらいしか理由は思いつかないんだけど。 Squeakなどオープンソース処理系が登場してずいぶん経つし、 最初のものはあまり関係なさそうだ。

とはいえ、いずれにしても

Smalltalk はかつて例を見ないほどインストールベースが増え、話題にのぼり、人々が手に触れることが出来るように*ようやく*なりつつある昨今だというのに!w

というのは、ずいぶん世間の認知とはズレている。 そのズレを解消するのが普及と再認識の第一歩かもしれない。

_ [言語] 初歩の「Perl」「Python」「Ruby」 − @IT情報マネジメント

Perl, Python, Rubyの簡単な紹介。

一番面白かったのはここ。

しかし、RubyもSmalltalkのようにいずれは消える運命にある。だが、筆者もいまは「分かる」ようになり、楽しいと感じている。

「Smalltalkは消えたのか」とか、 「まあ、50年経てばRubyも消えるだろうけど」とか思うけど、 他人には言われたくはない。

なかなかツッコミどころのある表現だが、 しかし、実はこれは誤訳。

原文

I was never able to really understand Smalltalk, mostly because of its very cryptic (to my mind) syntax. Ruby, however, is like Smalltalk for mere mortals. Now, I "get" it, and it is fun.

ああ、びっくりした。mere mortalsという表現が分からなかったんだね。

追記: 現在では注釈が付いて訂正されてるみたい。


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