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Matzにっき


2004年06月09日 [長年日記]

_ ACCS、個人情報流出問題で元国立大学研究員と和解

office氏とACCSの間で和解が成立したというニュース( CNETITmediaINTERNET Watch)。

条件は

  1. ASKACCSのサーバから入手した約1200件の個人情報と、河合氏が作成した個人情報が含まれるパワーポイントや資料の流布・拡散について、和解日から1年間、インターネット掲示板やインターネットホームページを1日1回程度の割合で点検すること
  2. 個人情報の掲載を確認した場合には、ACCSに報告するとともに、掲示板の管理者などに対して個人情報の削除を求め、当該個人情報を掲載した者を特定するための情報収集を行うこと
  3. 月に1回の割合でACCSへ点検状を報告すること

とのこと。点検するサイトは「2ちゃんねる、2ちゃんねるプロバイダー、はてなダイアリーの3つ」だそうだ。

これは民事のほうだと思うけど、不正アクセスうんぬんは別として、 個人情報を(故意に)漏洩してしまった事に対する対応としては、 わりと現実的ではないかと思う。

もっとも、こういうのは「罰」としてはともかく実効性は薄いような。

ファイル交換ソフトは対象から外されたみたいだし、 場末の掲示板とかチェックできないし。 本当ならこういうのは機械的に行うべきではないかと。

2ch対象ならそういうサービスはすでにあるみたいね。キーワード3つで1カ月15万円は高いか、安いか。

_ Winny with third party cancel

話題は変わるが、third party cancelが自由にできるWinnyがもしあったら、 それはどんなものになるか。 プライバシーの漏洩や著作権侵害は気がついた人がどんどんキャンセルしちゃうと。

もちろん、認証もなにもないキャンセルなのでいたずらに悪用されたりする可能性もある。 有用な情報もどんどんキャンセルされちゃうかもしれない。 ダウンロード効率主義者にとっては、確実に今よりも住みにくいネットだろう。 が、それは払うべきコストではないか。

あるいはその住みにくさによりユーザをひきつけられず廃れてしまうか。

_ LL Weekend 2004

今年はなんにも聞いてないから、「呼ばれないのかな、まあ、去年さんざん話したしな」と思っていたのだが、 たかはしさんから打診されてしまった。

土曜日のLanguage Updateはぜひともまつもとさんに語っていただきたいので、土曜の一日だけでも参加していただくことは可能ですか?

で、お返事は「できないことはないです」です。 ただ、私を呼ぶと交通費が高いですよ。 と、日記で返事するのもなんだか変だなあ。

しかし、考えてみたらRuby界で最近あんまり新しいことやってないような気がする。 話題といえばクラックのようなネガティブな話ばかり。これではいかんぞ。

_ 良心に蓋をさせ、邪な心を解き放つ

昨日のエントリに対して、高木さんからコメントをいただいた。

「不可能」と「簡単にできることではない」とは異なる。「侵害されてしまったこと」と「侵害され続けること」あるいは「侵害が拡大すること」とは異なる。

まつもとさんは、インターネットがそもそもそのような性質を少なからず持っているということに主張の力点をおいているのだろう。だが、それはいまさら言うまでもないことではないか。

えーと、その通りです。私はまさにその「いまさら言うまでもないこと」について話したかったんです。

私と高木さんは話していること(見ていること)が違うんですよ。 高木さんはWinnyの仕組みが他の類似物と比べて悪質であり「邪な心を解き放つ」効果があることを示そうとしておられるのだと思います。それに対して私は反論するつもりはありません。

ここでの「Winnyでなくてもそういう問題があるのだから」という発言は、 「Winnyだけが悪いわけではない」というWinny擁護のニュアンスではなく、 「では、そういう「インターネット」で自分を守る仕組みはどういうものか考えたい」という 問題提起のつもりだったのです。

答えがないのはあいかわらずですけどね。

_ Winny開発は著作権法違反幇助にあたるか

CNET Japanより。

ACCS専務理事、久保田氏による見解。もちろん、彼の意見は「幇助にあたる」だ。 重要なのはACCSの基準が明確化されたこと。警察による基準ではないが、 ある意味当事者の一人であるACCSから基準が出ることは、最初から基準の明確化を求めてきた私には朗報だ。

幇助の概念を一番広く取れば幇助にあたるのは議論の余地はないので、 ここでは「可罰性のある幇助か」どうかの基準であると解釈する。

ACCSの基準は以下の通り。

  1. 著作権制度を変えるために、著作権侵害を蔓延させる意図でWinnyを開発・配布した
  2. 著作権侵害に悪用されていること、将来悪用される蓋然性が高いことを認識しながら、さらにバージョンアップを繰り返して配布を継続した
  3. ゲームソフトや映画といった著作物が公開者によって入手され、悪用され、著作権侵害が実行された

それぞれ考えてみよう。

どう考えても(3)は必須なので以後略。正犯による著作権侵害が行われなければ幇助もない。

では、残りの条件を考えてみるに、 これだけでは「幇助というには足りても、可罰性についてはどうか」という印象を持つ。 ここは議論の分かれるところではないだろうか。この点については法廷で争われることになろう。

分からないのは、久保田氏の「サービスや技術自体が違法だという立場には立っていない」という発言だ。

「技術自体が違法ではない」という部分は 「P2Pという技術自体が違法ではない」と解釈すれば筋は通っている。 しかし、「サービス」という言葉が含まれている以上、私には 「Winnyというサービスや技術自体が違法ではない」という風に読めるのだが。

しかし、それでは「1人の天才技術者が、制度に対して技術的にテロのような状況を起こすことには怒りを禁じ得ない」という言葉と矛盾するし。 この部分の「サービス」とはなにを意味しているのか。「ファイル交換」か?


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