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Matzにっき

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2003-10-07 [長年日記]

_ [OSS]「持たざるもの」とオープンソース

昨日の「ソフトウェアエンジニアのオープンソースへの相反する感情」に対して、 荒川さんは以下のようにコメントしてくださった。

おっしゃることはもっともですが、それは「まつもとさん」だから言える事ではないでしょうか。

(中略)

元になっているインタビュー記事の真意はともかく、梅田望夫さんの記事はその他大勢の「持たざるもの」をターゲットにした話であり、まつもとさんの指摘は微妙に外れているように思うのですが、いかがでしょうか。

ある意味当然かもしれないが、私は外れているとは思わなかった。 指摘を受けたいまでも外れているとは思わない。なぜか。

梅田さんの真の意図は私には分かるはずもないが、当該記事の見出しはこうだ。

  • オープンソース・エンジニアの本業は?
  • オープンソース活動と収入の関係
  • ソフトウェアベンチャーの時代はもう終わった
  • オープンソース・プロジェクト立ち上げの新しいスタイル

つまり、基本的な構造は「オープンソースエンジニアはどうやって生活を維持するか」という疑問の提示と、 その解としてのMitch KaporのNPO(OSAF)の紹介である。

たとえ梅田さんの記事の想定される読み手が「持たざるもの」であったとしても、 文章が解説しているのは「オープンソースエンジニア」のあり方であり、 彼らは(著名であるかどうかは別として)価値あるものを持っている人々のはずである。 少なくとも「持たざるものがどうやって生活を維持するか」という話じゃない。

そして私の昨日の文章の趣旨は 「オープンソースエンジニアの持っているものが価値あるものであれば、 (うまくやれば)生活の心配しなくても済む時代は近い、いや、もう来ている」 というものである。 言い替えれば「どうやって生活を維持するか」という疑問は今やそれほど重要でなくなっている、 という事実の提示である。

現在の真の問題はその前段、つまり、どうやって「持てるもの」になるか、という点だ。

梅田さんの記事も私の文章も、どうやったら「持てるもの」になるかについてはなにも書いていない。 それについて聞きたい人は多いだろうけど、そんなの人によって違うだろうし、 万人向けのハウツーはありえないだろう。

_ [政治]コンピューターの世界から、「日本語」が消えたっ

また古い話なんで恐縮である。Ruby温泉ミーティングでは、この件について書かないと言ったような気がするが、 私と同じ意見を見かけないので、記録のためにもやはり書いておこうと思った。


コンピュータの世界から日本語が消えたのである。マイクロソフトとTRONが提携なのである。

要するに半可通である。コンピュータについてなんにも知らないわけでない人が、 自分の知っている範囲内のことをつなぎあわせて作った脳内世界について語ってしまうという。 別に珍しい現象ではない。

ほぼ同じ時期にアサヒ・コムの「デジタルストレス王」でもMacOS Xについての誤認に基づいた記事が出た。 Webに半可通は珍しくない。既存のメディアでさえそうなのだから。

喫茶店や電車の中でコンピュータ関係の無茶苦茶な知識を披露している場面に遭遇したことがある人は多いだろう。 滅多に人の多いところに行かない私でさえ、一度や二度ではない。

「読むだけで感染するウィルスがあるから、なんちゃらというサブジェクトのメールは読まずに削除しなきゃダメ」 というデマにも笑ったが、そのうち現実になってしまった。現実はデマよりも奇なりだ。

まあ、それはともかく。Webに書く内容はほとんど誰からもチェックされないから、 内容的には飲み屋の与太話、電車のうわさ話と同じレベルだ。 当の長尾氏も普段からこんな話をしていて、周囲からは「ITに詳しい人」と思われているんだろうなあ、 ということが想像できる。

では、Webに限らず、世の中に半可通がこれほど多く*1、 またそれが容易に想像可能であるとして、 問題はなにか。

一般的な問題としては、

  • 「Webで見た」という理由で半可通の言葉を信じてしまう人がいる。 Webの文章は、飲み屋の与太話よりも、雑誌の記事のレベルを想起させるから。
  • 半可通のほとんどは無自覚なので、うそを吹聴して回る。

また、この件に限定した問題としては

  • 長尾氏は政党職員で議員ではないようだが、それでも政治の世界のIT理解度の低さがうかがえる。

そういうことを感じたので、このことが話題になっている時には

まあまあ、半可通とはいえITに興味があるのは確かだから、 教化してちゃんと知識のある人になってもらえば、 IT業界(特にオープンソース周辺)の政治力強化につながるかも

と彼を擁護しようかな、と考えていたのだ。今でも「政治力強化」は必要だと思っている。

しかし、当の文章や、その後のいいわけを 読むと、政治的な能力はともかく、日本語には不自由してそうだ。 自分の考えをきちんと論理的に表現できない人は政治の世界にいるべきではない。

というわけで、誰かきちんとITについて学びたいという自称IT通の政治家はいませんかねえ。

*1  もちろん、私も半可通だ

本日のツッコミ(全6件) [ツッコミを入れる]
_ mput (2003-10-07 18:35)

島根県選出の細田博之氏とかは? いちおう IT には詳しい「ことになってる」はずです。興味あるかは知りませんが

_ 荒川 (2003-10-07 18:39)

私から見れば「オープンソース・エンジニア」は既に「持っているもの」です。言い方が悪かったのであれば申し訳なく思いますが、「オープンソース・エンジニア」がどのような人たちでどのような暮らしをしていて収入はどうだ... という話はあちこちで聞きますが、誰にでもできることではないですし、むしろ殆どのコンピュータエンジニアにとっては縁のない話です。<br>大事なのは今まで「オープンソース」を意識してこなかった「プロのエンジニア」(といって悪ければ職業エンジニア) がこれからいかにして「腹をくくる」かということでしょう。<br>私は凡庸な「その他大勢」の職業プログラマです。「オープンソース・エンジニア」の暮らしはある種の理想ですが、現実的な距離には存在しません。どうしても「オープンソース・エンジニア」たろうとするなら理想と現実を埋める「何か」が必要です。梅田望夫さんのコラムには「何か」を暗示するものがありますが、失礼ながらまつもとさんのコメントにはそれが見当たりません。問題は「オープンソースエンジニアはどうやって生活を維持するか」ではなく「オープンソースエンジニアではない人がこれからの時代を「凌ぐ」には何が必要か」でしょう。<br>「そんな人たちのことなど関係ない」のかも知れませんが、そうであるなら件のコラムを(まつもとさんのような影響力のある方が)「浅い」と評すのは切な過ぎます。一寸の虫にも五分の魂はあります。

_ まつもと (2003-10-07 19:22)

私から見ても「オープンソースエンジニア」はすでに「持っているもの」ですよ。そして梅田さんの記事は「持っているもの」についてだけ扱っています。少なくとも私にはそう読めました。<br>梅田さんも書いていないことが私の文章に「見当たらない」と言われても正直当惑します。<br>荒川さんがどう読んだのかは知りませんが、私には梅田さんのコラムが「持たざるものへの何か」を書いているようには思えませんでした。わたしには読み取れなかった「何か」ってなんですか?<br><br>「今までオープンソースを意識してこなかったエンジニアがこれからいかにして腹をくくるか」というのは、おっしゃる通り大事なテーマだと思いますが、今回は私も梅田さんも触れていません。<br><br>ところで、「オープンソースエンジニア」になるのはそんなに「誰にでもできることではない」ことなのでしょうか。自分を振り返っても、そうは思えないのですが。どの辺が現実的でないんでしょうね。

_ orca (2003-10-07 20:49)

何を「持っている」のか σ(^^) には読めないんだけど, オープンソースエンジニアとしてあるために, 普通の(?)ソフトウェアエンジニアに必要なものがあるとすれば, それはコミュニケーション能力かも, とか思うです。<br>無いってゆってる訳じゃないけど, 数人で開発しているよりもさらに必要かも ・・・ と。<br><br>「浅い」と評している部分, まつもとさんと荒川さんとでは違うものを指しているよーに見えるのだけど, 曲解しないくらいには言語能力 必要かも。<br><br>・・・ とかゆって, 「持っているもの」が何を指しているのか理解できず, 「浅い」の部分が同じものだったとしたら, σ(^^) こそ言語能力欠如してるかも。あはは。

_ hohhoh (2003-10-08 01:51)

こんにちは、いつも読ませていただいています。<br>古い記事ですが、国会がIT化から取り残されている様子がよくわかります。<br>http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20030527s2000s2

_ Sla (2003-10-08 19:13)

おそらくまつもと氏と荒川氏のすれ違いは「ターゲット」という言葉の解釈の違いから生まれたのではないかと思います。<br>荒川氏は梅田氏の元記事を「オープンソフトウェアエンジニアに憧れる持たざるもの=職業プログラマを”読者”という意味でのターゲットにして書いた文章」と思われたのではないじゃないでしょうか。<br>一方、まつもと氏は「オープンソフトウェアエンジニア=持っているものを”話題”という意味でターゲットにした」と思われたのでは。

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