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Matzにっき


2003年09月20日

_ [生活]休日

昨日から泊まりに来ている姪が元気よく遊んでいる。 2才児にはコンピュータが大変珍しいらしく、PCを開けていると邪魔しに来る。 当然、プレゼンの準備はできない。

自宅にいても騒がしいだけなので、近所の水族館に出かける。 宍道湖周辺の生物を集めた小さな水族館である。 まあ、気晴らしになった。

夜は夜で、Linux Magazineの原稿が足りなかったぶんを書き足したり、 明日の日曜日の準備があったりして、さっぱりプレゼンは進まない。 まあ、いままでもこうやって〆切に追われてもなんとか片づけてきたので、 最終的にはつじつまを合わせられると思うけど、プレッシャーとストレスは高まる。

ところで、こんなことして原稿書きばかりしてるからRiteとか進まないんだろうか。

_ [Ruby]仮想マシン

笹田さんが仮想マシンの実装でdirect jumpとswitchの比較をやっておられる。 このdirect jumpで

#define NEXT() goto *((void *)(codes[pc]))

となっている部分を、ラベル直後で

#define NEXT0()  addr = (void *)(codes[++pc])

実際の処理後の分岐では、

#define NEXT1() goto *addr

とすることにより、Pentium IIIでは最大2割くらい速くなるみたい。え、そんなに?

勉強になった。


2004年09月20日 敬老の日

_ [Ruby]デバッグ

直したバグ。

_ [家族]救急車

二階で「どさっ」という大きな音がするので駆けつけたところ、 娘が鴨居に頭をぶつけて倒れていた。「すべり台の上からジャンプしたら鴨居があった」のだそうだ。

顔色は悪いし、吐き気がするということで、 当番医を確認しようと119番に電話したところ、 「頭は恐いから救急車を送りましょう」と言われた。

さっそく救急車に来てもらい病院へ。おおげさなことになったなあ。 妻が付き添い、私と他の子は留守番。

しばらくすると妻から電話があり、 「CTスキャンも取ってもらったが異常なし」 ということであった。

ああ、びっくりした。


2005年09月20日

_ [OSS] Linuxソフトウェアアンテナ

技術評論社のムック。私も書いている。 アメリカ帰りの空港の待ち時間で書いた原稿だ。

「[入門]オープンソース開発オリエンテーション」という特集の中で 「オープンソース開発、その前に」タイトルが付いている。 そんなタイトルになったのか。 基本的に

  • オープンソースの定義
  • オープンソースの歴史
  • 開発者の実例

などを(おもしろおかしく)まとめたものだ。

さて、この中での「実例」だが、もちろんフィクションなのだが 名前、人物とものモデルがいる。

  • 学生のタナカ・カナタさんの名前は知人の息子さんから。 本当に回文の名前なのだから恐れ入る。 人物の方は学生時代の私がモデル。だからOSSはcmail。
  • シミズ・ヒロシさんの名前は会社の別々の同僚の名字と名前を組み合わせたもの。 モデルはWideStudioの平林さん。
  • コダマ・マドカさんは回文を意識して合成した名前。 彼女には具体的なモデルはなく、会社の何人かの後輩から合成したもの。
  • イノウエ・コウジさんの名前も会社の同僚からの合成。 人物モデルはうちの会社の社長、井上 浩。
  • ゴトウ・ユウゴさんも同僚から。人物モデルはパッチモンスターこと中田さん。 もっともインタビューしたわけじゃないから本当は彼はそんなこと思ってないかも。
  • マツモト・ユキヒロさんは身近な人物から。 人物モデルもその人。

なお、年齢はみなテキトー。

_ [Ruby] 深夜のハッカー軍団

元々は『Gartner、オープンソースを公平かつ正当に評価』から、オープンソースは「深夜のハッカー軍団が作っているわけじゃない」という話。

中田さんがRubyのChangeLogの日付を解析してみたら以下のようになった。

$ ruby -ane 'BEGIN{$t=[0]*24};$t[$F[3].to_i]+=1 if /^[A-Z]/;END{a=$t.inject{|a,b|a+b};$t.each_with_index{|n,h|printf "%02d:%4d %2.1f\n", h, n, n.to_f/a*100}}' ChangeLog
00: 183 7.2
01: 139 5.5
02:  85 3.3
03:  49 1.9
04:  38 1.5
05:  26 1.0
06:  34 1.3
07:  39 1.5
08:  65 2.6
09:  69 2.7
10: 105 4.1
11: 136 5.3
12: 117 4.6
13: 123 4.8
14: 137 5.4
15: 133 5.2
16: 133 5.2
17: 148 5.8
18: 135 5.3
19: 102 4.0
20:  97 3.8
21:  98 3.8
22: 152 6.0
23: 205 8.0

要するに

  • 2時から9時までは少ない(寝てたり、他のことしてたりする)
  • 20時から21時も少ない(家族と過ごしている)
  • 22時から深夜1時までは多い(一番ハックしてる)

という私のライフスタイルを反映しているような気がする。

やっぱ、「深夜のハッカー」か。


2006年09月20日

_ [Ruby] Rubyist Magazine 16号

出た。今回は「言語探訪」は代打にお願いした。 まあ、私じゃ「なでしこ」はじゅうぶん紹介できかったと思うから、 かえって良かったんじゃないかな。

もう2年にもなるそうだ。 それもこれも笹田くんのおかげである。

_ [Ruby] Ducktator

外部からYAMLファイルで指定したsignature validationを行うライブラリ。

ruby-talkでは「Signature ValidationはDuck Typingではない」という論争が 起きたりもしたが、まあ、沈静化したらしい。火消しに走った甲斐があった、というものだ。

_ [OSS] opensource 2.0

Tim O'Reillyによる講演。要するに従来のオープンソースという枠組みでは 自由を担保できないタイプのアプリケーション(具体的にはWebアプリケーション)がある、 という話。GPLv3の主要なテーマの一つである。しかし、Opensource 2.0とは 陳腐なキーワードだなあ。

先日、メールによる取材で「オープンソース2.0」というキーワードを かかげたものがあり、「それって何よ」ってツッコんだら、 そのキーワードは引っ込んでしまったという経験があった。

その矢先にこれだものなあ。

追記

yomoyomoさんから「前から使ってたの知らないの」との指摘。

そういえば、以前に読んだような気もしないでもない。 不明を恥じる。 まあ、あんまり記憶力に自信がある方じゃないんで。

ただし、

  • Timが使っても「陳腐なキーワード」という印象は変わらない。 まあ、Web2.0からしてそうなんだけど。
  • 今回のキーワードはTimのとは関係なく独自に作ったものだった

ということは明記しておきたい。

_ [言語] Python 2.5リリース - パフォーマンス向上、コンパイラ仕様の変更も

おめでとう。いやあ、開発方面にも人材豊富な感じがしてうらやましい限りである。

Python 2.5リリースを記念して、Ruby 1.9にもString#partitionとrpartitionを追加した。 「リスペクト」である。


2007年09月20日

_ [知財] 絵本の文章、無断で掲載…作家の寮美千子さんが提訴

私は著作権は大事だと思っている。ので、 通常のケースなら、自分の文章が無断で利用されることに対して裁判を起こす人の気持ちは分からないでもない。ただ、このケースには賛同できない。

絵本の文章をホームページや本に無断で掲載されたとして、奈良市在住の作家、寮美千子さんが18日、岩井国臣・元参議院議員に、侵害行為の差し止めと75万円の損害賠償などを求める訴えを東京地裁に起こした。

しかし、この「絵本の文章」は彼女のオリジナルではない。

訴状によると、絵本は1995年に出版した「父は空 母は大地」で、先祖伝来の土地を追われることになった米先住民の首長が1854年に行ったとされる演説を寮さんが翻訳、再構成した。

さて、オリジナルの著作者は(実際には確定ではないらしいが)先住民の首長であり、 1854年の演説と言うことは、この首長さんが相当長生きでも著作権は切れていると考えてよいだろう。

では、この「無断掲載」は寮さんの著作権を侵害したことになるか。

  • オリジナルに著作権は無くても翻訳(二次創作物)に著作権がないわけではない。
  • が、翻訳・出版を行った事実はパブリックドメインの文章に対する 独占的な権利を発生させない。
  • オリジナルは英文であり、そこから独立に翻訳したものに寮さんの著作権はおよばない
  • よって、「無断掲載」された文章が(文言が微妙に違うなど)独立した翻訳である 可能性が否定できない場合には、彼女の権利侵害とは言い切れない
  • 「翻訳・再構成」した彼女の独自の成果が明らかに「無断掲載」に反映されているようならば なにがしかの権利侵害が発生したといえないことはないだろう

とはいえ、パブリックドメインの文章を翻訳・出版しておいて、他人に損害賠償を求めると言うのは、どうにも納得が行かない

追記(2009-09-30)

コメントでusagitoさんから情報をいただいた。 無断使用に対する著作者人格権に基づいた謝罪要求に相当する提訴であると理解しました。 「謝れ」と裁判で要求するのは現実的じゃありませんからね。

私が今回納得できなかったのは「パブリックドメインからの二次創作物の財産権に基づいた損害賠償」なので、上記の「賛同できない」、「納得できない」は取り下げます。

_ [Ruby] Asianux Road Show 東京

というイベントで講演することになった。10月16日。 よしおかさんの頼みを断れなかったからだ。 人脈というのはこのように活用するのね。

しかし、せっかくの機会なのでもうビジネスの話は忘れて 技術っぽい話をすることにした。 ベースはModelingForumの時の話なんだけど、 より技術っぽい話(って言っても、私のことだから知れてるけど)にフォーカスしようと思う。

参加は無料。けど120人が定員だな。あまり多くはない。

_ [言語] メニイコア、ヘテロジニアスコアのプログラミング言語

この記事で解説されているようなものを「言語」とは呼ばないと思う、普通。 なんか、CPUインストラクションセットを言語と呼んでるような感覚。

でも、アプローチとしては面白い。 「言語」はこの技術を如何に抽象化し、隠蔽したまま、活用するか、 というところが腕の見せ所になる。

_ [Ruby] Devlog - FasterCSVよりもLightCsvよりも速いCSVパーサ CSVScan

Moonwolfさんのところ。

定番の郵便番号データをパースして行数をカウントするプログラムだと、FasterCSV比で19倍。LightCSV比で12倍の速さ。

というからたいしたもんだ。しかし、それでも「Pythonのcsvモジュールに比べると60%の速度」なのだそうで、「Pythonのcsvモジュールは化物か」という気分だ。

いや、専用にC extensionを書き下ろしてるからなんだけど。

_ [言語] PHPの性能を大幅に改善するFastCGI

先週のMySQL Users Conferenceでもらった資料を眺めているのだが、 PHPの性能を大幅に改善する技術としてFastCGIが紹介されている。 いや、そりゃ、FastCGIは有効な技術であるのは分かるし、 Rubyでもproduction codeではずいぶん利用されている。

が、そんなに新しい技術というわけでもないし、 2007年にマーケット色たっぷりにパンフレットを作って紹介する ようなものではないような。

PHPの(あるいはZend+Microsoftの)マーケティングは 日々耳にするWeb技術のトレンドからずいぶん「遅れた」ところを ターゲットにしているように思えるんだけど、 それっていうのは「PHPの現実」を意味してるんだろうか。


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