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Matzにっき


2004年01月27日

_ [生活]散髪

あまりにも髪が伸びていたので、ずるずると引き伸ばしてきた散髪に。 ばっさり切って、さっぱりした。でも、ちょっと寒い。

_ [言語]Traits

昨日、話題にしたtraitsだが、 論文としてのインパクトはともかく、Smalltalk言語に対するインパクトは非常に大きいことに 改めて気がついた。Smalltalkでは単純継承のために実装の共有が難しい側面がある。 もちろん、委譲を使えば良いのだろうが、やや面倒な側面がある。

Smalltalkに多重継承を取り込んだ試みも報告されているが、成功したとはとても言えないだろう。 実際に多重継承を持つ(広く使われている)Smalltalk処理系は存在しない。

しかし、このtraitsは

Both the Squeak Foundation and Cincom have expressed interest in incorporating traits into the main development stream of their Smalltalk systems.

ということで、もしかしたら本流のSmalltalkに取り込まれるかも。 これがSmalltalkにとって画期的なことではないだろうか。

同じように実装の共有に苦しんでいる(ように見受けられる)言語にJavaがある。 これも単純継承しか持たず、実装の共有に委譲を使っている。 「継承よりも委譲が良いんだ」というのはJavaプログラマがよく言う言葉だが、 Mix-inを知るものにとっては負け惜しみに聞こえる。

さて、Javaにtraitsを加えたら、どのような世界が広がるか。 その時、Javaプログラマはどう感じるか。

仕様の継承としてのinterfaceと実装の継承としてのtraitの両方を持つ言語は、 大変有望な言語になると思うのだが*1

*1  それがMixJuiceだという気もする


2005年01月27日

_ Developers Summit 2005

GPLについてコメント欄で議論してたら、すっかり更新が滞ってしまった(書いているのは31日)。

来週の木曜日・金曜は、翔泳社でDevelopers Summit 2005(デブサミ2005)が開催される。

私は「オープンソーストラック」の「なぜ「オープンソース」でうまくいくのか?--後編:まつもとゆきひろが語る「オープンソース的開発手法の現実」でしゃべることになっている。まだ風穴さんと打ち合わせが終わってないんで、どんな内容について話すのかよくわからないんだけど。でも、きっとGPLの話とかではないに違いない。そういうのは弁護士の先生に聞いてください。

実際には開発体制とか、コミュニティ運営の話になるのではないかと思う。 ツッコミでの「聞きたい話」とかのリクエストは歓迎するけど、 風穴さんがしきると思うから、要望にこたえられるかどうかはわからない。

あと、木曜の夜、私(とかずひこくんも?)と一緒に食事したい人も募集する。


2006年01月27日

_ [言語] 「Javaの生みの親」に聞く「AJAX、LAMP、Ruby on Rails」

Goslingへのインタビュー。彼までRubyに言及してくれるとは。 これもRailsのおかげだろう。ありがたや。シカゴのほうに足を向けて寝られない。 だんだん足を向けられない方向が増えてくな。

しかし、RailをJRubyとつなげて答えるなどとんちんかんな印象を与える答えも多い。 また、ちょっとスクリプト言語を見下していたり、 「言語のパワー」を低く見ているような印象も受ける。

ところで、彼の

ただ1つ、スクリプト言語の作成者には、もっと変わったものを作ってほしいという願いを抱いています。

というメッセージを自分のものとして聞ける立場の人間はさほど多くないと思うのだが、 さいわいにも私はその一人だ。

正直、「あまり変わったものを作らない(少しだけ変わったものを作る)」ことこそが 言語の成功の秘訣だと考えているので、 「もっと変わったもの」についてはあまり積極的ではないのだが、 少し考えてみよう。

「変わったもの」...うーん、APLのリストとか。 RubyのArrayにアレを実現できる機能を用意すれば...。

うむ、一次元のものについては今でもinjectとか使えばでできちゃうのかな。

_ [OOP] 「オブジェクト指向」改め「抽象データ指向」

20日分のエントリは結構話題になったようで ありがたいことである。小飼さんのところでも 「オブジェクト指向は構造化の「次」か?」というテーマで反応していただいている。

彼は構造化とOOPは「直交する」と認識していらっしゃるようだ。

ま、理屈ではOOPだが構造化されてないプログラムは存在しえるので、 直交していると言えないことはないと思う。 が、それを言い出すと構造化プログラミングを構成する各要素も直交してるし。

要するに同じカテゴリに属する同じ性質のもので、 オブジェクト指向(プログラミング)の方が後から出てきた、程度の意味なんだけど。

まあ、それはある意味どうでも良いことなんだが、 小飼さんの文章を読んでいて、少し気がついたことがある。

実際smalltalkやhypertalk、そしてsqueakといったプログラミング環境では、オブジェクトはフィールドとかボタンとかといった、「もろに目に見える」「実存」であり、それ故まだものごとを抽象化して捉えることの出来ない子供でも始められるようになっている。

Smalltalk環境やHypercardにおいて、「オブジェクトを操作できる感」が提供されていることは 事実だが、それは「オブジェクト指向プログラミング」とは直接関係ない。 それはある意味「アプリケーションの機能」であって、 オブジェクト指向プログラミングによらないアプリケーションでも ユーザに「オブジェクト感」を提供できるだろう。

オブジェクト指向プログラミングを使った方が そのようなアプリケーションを作りやすいだろうけど、逆に言えばそれ以上ではない。

で、私よりも数学的思考法に強そうな小飼さんまで、 そのような「混同」をしてしまうというのは、 単にマーケティング用語として「オブジェクト指向」が使われた不幸だけでなく、 「オブジェクト」という単語が持つ「魔力」というのものは 私の想像以上に強いということなのかもしれない。

オブジェクト指向プログラミングにおけるオブジェクトという抽象化された存在と 目に見える(あるいは触れる)モノとの連結性を強く連想してしまうのが (普通の)人間というものか。

私にとってのオブジェクトは、現実に対応するものがあるにしても 抽象化された存在であるから、現実とどこまで対応しているかなんて 気にしたこともないのだけれども。 そんなの「三匹の猫」と「数字の3」が同じ性質を共有してないと 文句を言うのと同じくらい不毛な気がする。

あるいは、私がそう感じるのは、私が日常的に扱う「オブジェクト」は、 「文字列」とか「配列」とか「コンティニュエーション」とか 現実世界に対応するものが存在しないものばかりだからかもしれない。


2007年01月27日

_ 画像ビューア絵箱@nekobooks

先週のリクナビはあちこちで話題になったらしい。 私(や鵜飼さん)の名前と言うよりもリクルートのブランドの威力だろう。

が、どうも「まつもとひろゆき」という表記をあちこちで見かける。 やっぱ、間違えられちゃうよなあ。残念だ。

で、今回「まつもとひろゆき」でエゴサーチをして見つけたのがこれ

なんと、正真正銘の「まつもとひろゆき」さん。 イラストレーター・デザイナ・開発者で、 Macのフリーウェアを開発しておられる。

が、せっかくの作品を私のものだと勘違いしている人もいるようで、 申し訳ないような気もする。

っていうか、まぎらわしいなあ。 せっかく差別化のためにひらがなにしたのに、 全然有効じゃない。もっと珍しい名前だったらよかったのに。

_ ウェブキャリアでWebエンジニアとしてのキャリアを磨こう

歌代さんさんのインタビュー。

しかし、こんなにもズレてていいのか。 伝統的なSE観と、「本物のエンジニア」。

_ セキュリティキャンプ・キャラバン島根

島大の中で道に迷ってだいぶ遅刻して参加。 会場くらい確認してから来ればいいのに。

園田(sonodam)さんと濱本さんの話が生で聞けると言うのは僥倖だが、 見渡した限り、そのことを理解している参加者は少数派な気がした。

で、のんびり話を聞いてたら、 担当の人(U-20プロコンでお世話になった人)が、 「で、Rubyのまつもとさんがいらっしゃっていますから、お言葉をどうぞ」 とのたまう。えーと。

しょうがないので、「最近の若者は...」というネタで 5分くらい。「成功者はブレーキが壊れている」という話は 濱本さんにもウケたらしい。

もっとも、後で考えたら「ブレーキが壊れている」と「ポテンシャルがある」は 直交しているから

  • ポテンシャルがあり、ブレーキが壊れている(成功者)
  • ポテンシャルがあり、ブレーキがかかっている(もったいない)
  • ポテンシャルは無いのに、ブレーキが壊れている(大迷惑)
  • ポテンシャルは無いけど、ブレーキもかかってる(無害)

という組み合わせがあるなあ。 むやみに「ブレーキを外せ」とだけ言うのは無責任だったかも。


2008年01月27日

_ 髭を剃った(2)

教会に行く。結局まる一日、誰も髭のことには言及しない。

そんなもんだ。


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