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Matzにっき


2005年01月25日 [長年日記]

_ [OSS]見直しがすすむGPL

ITmediaにも同じ記事

元々は、Linux.com分室に書いた記事だが、こちらにあまりにたくさんコメントがついたので利便性のため、こちらにもコピーすることにする。

「GPLの見直しが進んでいる」が、その詳細は明らかになっていない、という話。 GPL3についての新しい情報はなにもないが、 それぞれの人が勝手な立場からいろいろ期待していることは分かる。

Sughrue Mion法律事務所に所属する弁護士のFrank Bernsteinによると、... 特許に関する問題が解決されれば、オープンソースソフトウェアの(発展の)貢献者であり顧客でもある企業にとっては、GPLがさらに利用しやすいものになる可能性があるという。
オープンソース文化を啓蒙する非営利組織Open Source Initiative(OSI)会長のEric Raymondは、「ソフトウェア特許に関する厄介で崩れかけた少数寡占体制がより深刻な被害をもたらす前に、それを解体する方法を見出す必要がある」と述べ、さらに「仮にGPL Version 3がその一助になるのであれば、(同ライセンスは)大変貴重な存在だ」と語った。
オープンソース提唱者のBruce Perensは、特許権侵害訴訟に関する罰則が、単に問題のソフトウェアの使用禁止から、フリーソフトウェアと分類される全てのプログラムの使用禁止へと強化されることを期待しているという。「次期版GPLに、例えば、ある人物が特定のフリーソフトウェアに関する特許権を行使したら、その人間のフリーソフト使用権が消滅するといった、相互防衛条項が盛り込まれることを期待している」(Perens)

Eric RaymondやBruce Perensが、Stallman以上にGPLを「武器」として使いたがっているのは、 興味深い。

しかし、私の予想では、いろいろなしがらみからそのような「劇的な変更」は行われず、 現在の条項の明確化が行われるのがせいぜいだと思う。

GPLにはこんなことが書いてあるしね。

9. The Free Software Foundation may publish revised and/or new versions of the General Public License from time to time. Such new versions will be similar in spirit to the present version, but may differ in detail to address new problems or concerns.

現在の精神を満たしつつ、新たな「制約」を加えるのは容易ではないだろう。

さて、仮にGPL3が登場したとしよう。 現時点ではどのようになるのかまったく明らかにされていないので、 どのような条項になるのか予想することさえ困難だが、 それは現在のGPL(GPL2)よりもある部分では制限が厳しくなるかもしれないし、 別の部分では制限が緩くなるかもしれない。

さて、それは現在すでにGPLが適用されているオープンソースソフトウェアにどのような影響を及ぼすか。

多くのGPLソフトウェアにはこのような注意書が書かれていることが多い。

This program is free software; you can redistribute it and/or modify it under the terms of the GNU General Public License as published by the Free Software Foundation; either version 2, or (at your option) any later version.

This program is distributed in the hope that it will be useful, but WITHOUT ANY WARRANTY; without even the implied warranty of MERCHANTABILITY or FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. See the GNU General Public License for more details.

つまり、このソフトウェアを修正あるいは配布する際のライセンスとして、 GPL2かまたはGPL3の「好きな方」を選ぶことができる、という意味だ。

このライセンスを受け取った人のうち、 GPL3の方が制限が厳しくなる部分が(あるかどうかさえ現時点ではわからないけど)気に入らない人は自らにGPL2を適用することができる。 逆にGPL3の方が制限が緩くなる部分があり、その方が都合が良い人はGPL3を適用できる。 が、その場合でもそのソフトウェアのライセンスの条件が「either version 2, or (at your option) any later version」であることには代わりがない。 この条件だとGPL3が「自動的に適用可能になる」が、「自動的に適用される」わけではない。

だがしかし、これだけ外部からいろいろ言われていると、 「将来のFSFの行動を信頼できない」と思う人もいるかもしれない。 私は20年以上の実績を信じるけど。

そういう人は「このバージョンのGPL」とか「添付したGPL」とかを明示するとよいだろう(Linuxはそうしている)。 個人的にはそれによってえられるメリットは多くはないと思うけど、 それによって「心の平安」が得られるのなら、それはそれで良いと思う。


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